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海洋流出油のバイオレメディエーション現場試験
牧秀明、越川海、樋渡武彦、木幡邦男、内山裕夫*、渡辺正孝
*現・筑波大学

 我が国は膨大な量の原油を他国から海路にて輸入しているのにもかかわらず、幸運なことにタンカー事故による油流出事故の件数は他国に比べて少ないと言えます。

 しかし1997年冬に、日本海でロシアのタンカーナホトカ号から約6,200 klもの重油が流出し、周辺沿岸に甚大な影響をおよぼしたのはよくご存知の通りです。また同年夏には、東京湾でダイヤモンド・グレース号タンカーが座礁し、約1,600 klの原油が流出したとされています。
 2002年には、小規模ながら4件の貨物船座礁による燃料重油の流出事故が相次ぎました。

 このような流出油の除去対策法として、油回収船、重機、人力による物理的回収や分散剤の散布、漂着現場での拭き取り、高圧熱水洗浄法等が適用されてきました。

 1989年に米国アラスカ州で発生したエクソン・バルディーズ号タンカーによる大規模原油流出の除去対策法の一つとして、微生物を用いたバイオレメディエーションが実施され、漂着油の浄化法の一つとして注目されてきました。

 海洋流出油のバイオレメディエーションの要点は、土着の石油分解微生物にとって石油分解の律速因子となっている、窒素・リンを局部的に外部から供給することにより、石油の微生物分解を速めるというものです。
 ただこれまでの現場での適用・研究事例から、必ずしも外部からの窒素・リン添加が石油分解を促進するとは限らないことが示されております。

 我が国では、海洋流出油のバイオレメディエーション適用事例がほとんどなく、現場におけるその効果と安全性に関する知見が乏しいのが現状となっています。

 当研究所では、これまでに日本海(兵庫県城之崎郡香住町)、太平洋(種子島東海岸)、オホーツク海(北海道紋別港)それぞれの沿岸部にて小規模の現場試験を実施し、以下の項目について評価を行ってきました:

・栄養塩(肥料)添加による石油の微生物促進効果
・油除去総量に対する実質的な微生物の寄与






・海洋生生物に対する影響
・油生分解に伴う微生物群集と炭化水素酸化酵素遺伝子の変遷






 その結果として、以下のようなことが判りました:
・栄養塩(肥料)添加により、石油の微生物分解は促進される。ただし相当の窒素濃度(窒素換算1 mg/L以上)が一定期間(2週間くらい)局部的に維持される必要があり、栄養塩無添加でも、石油成分が有意に分解されうる。






・海洋生端脚類と珪藻類を用いた試験の結果、外部から栄養塩を添加することによる副次的な悪影響は見られなかった。

・栄養塩(肥料)添加により、土着細菌の群集構造の多様性は減少し、その変化の度合いは大きくなった。言い換えると、石油の微生物分解を促進するためには、微生物の群集構造を大きく変えられるくらいの栄養塩の添加が必要である。

・栄養塩(肥料)添加により、石油中に含まれる炭化水素化合物の分解のみならず、石油汚染担体(砂・礫など)からの剥離効果も促進されうる。全石油除去量に対する実質的な石油の微生物分解の寄与は30%程度である。






 今後はこれまでに実施してきた様々な現場試験で得られた結果を基に、被汚染体の形状(石、礫、砂など)、地形、干満、水温、波浪等の現場特性ごとの、漂着油のバイオレメディエーションの効果と適用性について整理していきたいと考えております。


*謝辞*
 以上述べました現場試験は、兵庫県、香住町、鹿児島県、西之表市、北海道、紋別市の各関係機関、地方環境研究所・センター、ならびに漁協の皆様のご理解と絶大なご協力を得て実施したものです。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。 また懇切にも様々な合成肥料顆粒の試供品を供与して頂きました、三菱化学(株)、チッソ旭肥料(株)に対しまして深謝致します。
 さらに、当研究所でご尽力頂きました非常勤職員の方々、日本工業大学、筑波大学、茨城大学、東京理科大学の学生の皆様にも、重ねて御礼申し上げます。





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